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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10233号 判決

原告(1) 林丘

〈ほか二四名〉

原告ら訴訟代理人弁護士 筒井信隆

同 清水恵一郎

被告 日本ソフトウエア株式会社

右代表者代表清算人 内藤次雄

右訴訟代理人弁護士 和田良一

同 宇野美子

右訴訟復代理人弁護士 宇田川昌敏

主文

被告は、番号(1)、(2)、(5)、(6)、(14)、(16)、(18)、(24)の原告らに対し各七万円、その余の原告らに対し各五万円と右各金員に対する昭和四七年一二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文第一、二項同旨(但し、昭和四七年一二月二六日は「本訴状送達の翌日」と読み替える。)の判決と第一項について仮執行の宣言を求め、請求の原因として、つぎのとおり述べ(た。)証拠≪省略≫

一  原告らは、いずれも選考試験に合格して被告会社の従業員として採用され、昭和四七年四月一日現在二四才以上で、かつ、勤続二年以上を経過し、番号(1)、(2)、(5)、(6)、(14)、(16)、(18)、(24)の原告らは「シニア」と、その余の原告らは「ジュニア」と呼ばれていた。そして原告らはいずれも右従業員をもって組織された日本ソフトウエア労働組合(以下「組合」という。)に加入していた。

二  被告会社は、昭和四三年一二月一〇日から住宅積立金制度を実施し、これにあわせて「住宅助成金」という名称の手当(以下「本件手当」という。)も新設したところ、右手当は、積立金制度による積立を行なっていると否とにかかわらず、「毎年四月一日現在、就業規則第三条第一号に定める職員(選考試験に合格して採用された者)として、勤続二年以上、かつ、年令二四才以上の者」に対し、「シニア」は七万円、「ジュニア」は五万円を毎年六月の賞与期に支給するという内容であった。

三  組合は昭和四五年一一月一四日結成されたところ、同四六年六月七日被告会社との間で締結された労働協約において、本件手当につき、従前は原則として積立金制度により金融機関に積み立てる建前となっていたのを、現金で支給することに改めたが、本件手当の性格は、協約の前後を通じてなんら変更はなかった。仮に、右協約により本件手当が賃金の一種であることが明らかになったとすれば、これはいわゆる規範的部分に属する事項であるから、協約が同四七年三月三一日の経過により期間満了で失効したとしても、本件手当に関する事項の効力に消長はない。

四  よって、原告らは被告に対し、昭和四七年六月に支給すべき本件手当として、「シニア」には七万円、「ジュニア」には五万円と右各金員に対する本訴状送達の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決と仮執行免脱の宣言を求め、答弁および主張として、つぎのとおり述べ(た。)証拠≪省略≫

(答弁)

請求原因事実中

第一項は認める。

第二項は、住宅積立金制度と住宅助成金制度が別個の制度であり、右助成金がいわゆる手当であることを争い、その余は認める。

第三項は、本件手当が賃金の一種であることと、これを前提にした規範的部分に属する旨の主張を争い、その余は認める。

(主張)

一 本件手当は、住宅積立金制度の一環として設けられ、その支給対象者は、最も多かったときでも全従業員の約三九パーセントにすぎず、「住宅資金の積立を勧奨し助成する」ことを目的とする積立金制度の趣旨からみても、労働の対価ではなく、恩恵的、暫定的な給付にすぎず、賃金としての性格は皆無である。このことは、支給が年一回に限られていたことのほか、原告ら主張の労働協約が締結されるまでの支給方法が、受給対象者の五分の四以上が積立金制度に加入しているため、その積立金の一部に充てるべく会社指定の積立取扱い金融機関に積み立て、すでに借金して住宅を入手しその返済の必要がある等の理由から、現金支給を希望する者にかぎり、その事情を裏付ける資料の提出を求めたうえ、例外的に現金を支給していたことからみても、明らかである。

二 被告会社は昭和四七年一二月一五日解散し、同年度は会社の業績からみて、賞与すら支給できない状況にあったから、かような苦境に立つ会社に対し、恩恵的性格を有する本件手当を請求することは、信義則に反するというべきである。

理由

一  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、同第二項の事実も、本件手当制度が住宅積立金制度と別個のものであるかどうかと、同手当の性格が何であるかを除いて、当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実によれば、本件手当は、被告が主張するように、「住宅資金の積立を勧奨し助成する」ことを目的とする住宅積立金制度の一環として設けられたものであり、従業員中支給対象者は限られ、年一回しか支給されず、支給方法も積立金の一部として積み立て、現金での支給は例外の場合にすぎないとしても、いやしくも一定の支給条件に該当する従業員には、積立金制度に加入していると否とを問わず、必らず支給され、支給条件は明確に定められ、しかもその内容において、年令制限は二四才以上にとどまっているから、以上によれば、本件手当は、その制度発足以来、支給条件を充足する従業員に対して一定の割合で支給される生活補助費の性質を有する給与(住宅手当)として、賃金の一種であるというべきである。

三  昭和四五年一一月一四日結成された組合と被告会社間に同四六年六月七日締結された労働協約において、本件手当の支給が現金方式一本に改められたことは当事者間に争いがないところ、右変更が本件手当の性格になんら影響を及ぼすものでないことは、すでに判断したところにより明らかであるから、本件においては、前記協約の失効といわゆる規範的部分の効力を云々する必要はない。

そして、本件手当が賃金の一種である以上、被告の第二項の主張も失当である。

四  以上によれば、被告は原告らに対し、昭和四七年六月に支給すべき本件手当として、番号(1)、(2)、(5)、(6)、(14)、(16)、(18)、(24)の「シニア」に属する者につき各七万円、その余の「ジュニア」に属する者につき各五万円と、右各金員に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな同四七年一二月二六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由があるから認容することができ、民事訴訟法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

なお、仮執行免脱の宣言をすることは相当でないから、右申立は却下する。

(裁判官 宮崎啓一)

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